あるところに、正直な《トロールの苦行者/Troll Ascetic》がいました。

いつものようにトーナメントでコントロールデッキを狩っていると、《帰化/Naturalize》で大切な《梅澤の十手/Umezawa’s Jitte》を墓地へ落としてしまいました。
トロールは大慌てで、墓地の中をのぞき込みました。でも墓地はとても深いようで、拾うこともできません。

「弱ったなぁ。十手が無くては仕事ができない」

がっかりして、墓地を見つめていると、突然墓地の中から《永遠の証人/Eternal Witness》が現れ、「そんな情けない顔をして、いったいどうしたのですか?」とたずねました。
トロールがわけを話すと、証人はさっと墓地の中に消え、輝く《火と氷の剣/Sword of Fire and Ice》を持って現れました。

「あなたが落としたのはこの剣ですか?」
「いいえ、そんな立派な剣ではありません」

すると、証人は再び墓地の中に消え、今度は《光と影の剣/Sword of Light and Shadow》を持って現れました。

「あなたが落としたのはこの剣ですか?」
「いいえ、そんな立派な剣ではありません」

証人は、もう一度墓地の中に消えると、正直なトロールが落とした十手を持って現れました。

「あなたが落としたのはこの十手ですか?」
「はい、それです。ありがとうございました」

トロールが大喜びで手を差し出すと、証人は優しく言いました。
「あなたは、本当に正直な人間ですね。この火と氷の剣も光と影の剣も、ついでに《すき込み/Plow Under》も全部あなたにあげましょう」
トロールは自分の剣のほかに、火と氷の剣とも光と影の剣もすき込みももらいました。もちろん優勝しました。
家に帰ると、さっそくこのことを仲間のトロールに話しました。

「そんなら、おれももらってこよう」

仲間のトロールは、たいへんな欲張りで、さっそくトーナメントへ出かけていき、墓地のそばへ来て、わざと十手を投げ込むと、その場に座り込んでおいおいと泣きました。
すると、墓地の中から証人が現れ、「どうして泣いているのですか?」とたずねました。

「大切な十手を墓地に落としてしまいました。十手が無くては仕事もできません」

欲張りのトロールは、また声を上げて泣きました。

「泣くのはおよしなさい。わたしが十手を見つけてあげましょう」

証人は墓地の中に消えると火と氷の剣を持って現れました。
「あなたが落としたのはこの剣ですか?」

欲張りのトロールは、けろりとした顔で「それです。それです。それがわたしの落とした剣です」と叫びました。
その途端、証人の姿は墓地の中に消え、もう二度と姿を現しませんでした。

欲張りのトロールは、火と氷の剣を手に入れられなかったばかりか、自分の大切な十手まで無くしてしまったのでした。

(おしまい)

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